卓上にのらない腐ったものについて
2025




橋本 梨生 個展
HASHIMOTO Rio solo exhibition

31/365

2026年1月27日-2月1日
12:00-18:00

KUNST ARZT では、橋本梨生の初個展を開催します。
橋本梨生は、漆を用い、醜さと美の境界を
模索するアーティストです。
「たとえ交わらなくても、(2025)」では、
「傷と回復」をテーマに、反発する素材や、
制作過程で自身に漆がかかりかぶれるまでの様を
写真、映像、パネルを用いて表現しました。
「卓上にのらない腐ったものについて(2025)」では、
金継ぎにより一つの塊が生み出されるまでの
過程で生じるモノや記録映像を再構成しました。
工芸の「漆」というジャンルのアーティストではありますが、
コンセプチュアルな視点からの活動を展開しています。
(KUNST ARZT 岡本光博)




アーティスト・ステートメント

私は、日本の漆工芸の中で培われた
美の基準を「秩序」、そこから外れた要素を
「秩序から反するもの=排除するべきもの」
と仮定する。
それらを1つの作品に共存させることによって、
漆工芸を人間の共感や拒絶の境界を
探る手段として応用する。
プロダクトとしての漆工芸品の制作過程では、
支持体の形を損ねることなく、漆を均一に塗る
「塗り」と均一に研磨する「研ぎ」の工程を
反復することが求められる。
凹凸が排除されたフラットな塗面を作ることは、
伝統的な日本の漆工芸の質を決める指標である。
私はこのような価値観を「伝統=秩序」と捉えている。
メアリ・ダグラス(1921-2007)は
『汚穢と禁忌』にて、穢れとは秩序創出の
副産物であると同時に、既存の秩序を脅かす
崩壊の象徴であると位置づけている。
ここでいう「秩序」とは、生きていく過程で得られた
文化的・慣習的経験から形成される、
許容範囲や規律のことである。
つまり、穢れとは純粋な汚さではなく、
私たちが許容できないもの、
排除されるべきものを差す。
排除されるべき「場違いなもの」は
相対的な価値観によってのみ存在する、
非常に脆い概念である。
一方でダグラスは、儀礼や宗教的慣習において、
穢れがしばしばの始まりや再生の象徴とされ
ることを指摘している。つまり「場違いなもの」は、
秩序崩壊の印とされると同時に「新たな秩序の予兆」
として捉えられる側面を持つ。
これはヴィクター・ターナー(1920-1983)の『儀礼過程』に
おける「移行期(リミナル)」と類似している。
両者は、既存の秩序が一時的に曖昧になる時、
その自由な状態(境界的存在)が
新たな社会的価値を創造することに言及している。
私の作品では、一般的に対称とされる美醜の感覚が共存し、
分類できない曖昧な状態をあえて作っている。
これは、鑑賞者が主体的に美とは何かを
吟味するための「場(コーラ)」の展開を試みるものである。
この実践の継続が、日常に潜む常態化した文化的、
社会的価値の再認識と、漆工芸の新たな段階へ
進むためのプロセスになると考えている。



PRESS RELEASE


HASHIMOTO Rio (b.1998, Shiga pref, lives and works in Kansai)
is an artist who explores the boundary between
ugliness and beauty using lacquer.
She earned her master's degree in a URUSHI / lacquer
course at Kyoto city University of the Arts.




たとえ交わらなくても、
2025
アルミパネルに漆
99.7×180 cm

漆の特性であるかぶれから生まれる、
「傷と回復」をテーマに制作したパネル作品と、
映像作品 などから構成されるインスタレーション作品。
植物由来の溶剤と漆の親和性を活かし、
風船に溶 剤で希釈した漆を詰めて膨らませ、
パネル上で破裂させる。52個の風船から弾けた漆は
作者に かかり、炎症を引き起こす。
また、金属と漆は完全に結合できず、
大量に漆がかかった箇所は、 漆硬化の際の
収縮によって、塗面が剥離してしまう。
「反発し合うアルミパネルと漆」「作者と漆」 の
それぞれの関係を、制作終了まで写真や映像など
様々な媒体で記録した。漆芸品制作の中で
起こりうるエラーを強調し、完成(回復)に至るまでの
過程を見せることで、作者と素材との間の、
普段可視化されない密接な関係性を明らかにする。




中古品
2024



経歴 
1998年 滋賀県生まれ
2025年 京都市立芸術大学大学院修士課程工芸専攻漆工 修了

展覧会
2025年 浄厳院国際芸術祭2025(浄厳院、滋賀)
2025年 A-LAB Artist Gate’25(A-LAB、兵庫)
2025年 OPEN STUDIO AT STUDIO TSUKIMISOU
(スタジオツキミソウ、京都)
2025年 京都市?芸術?学作品展同窓会賞、受賞
2023年 うるしなないろマーケット(近鉄百貨店草津店、滋賀)
2022年 雷擬獣化展(アートギャラリーピカレスク、東京)
2022年 京都学?アートオークション(京都市京セラ美術館、京都)
2022年 京都市?芸術?学作品展奨励賞、受賞
2021年 わたしのポラリス(Gallery Ann、京都)
2021年 第42期国際滝冨?美術賞優秀賞、受賞
2021年 京都市立芸術大学大学作品展平館賞、受賞